この森で生きる

Smile

俺のしっぽになにか、ついてる?
寄生虫とか、いるかな?
毛の中に紛れ込んでるから、見つけにくいだろう?
いつもありがとね。。
後で、俺も君のしっぽチェックするから。

君とこの森で暮らし始めて、はや10年。
この森に来たときは俺らも若かった。右も左もわからなくてさ。。
この森の慣習に合わせるのが一苦労だった。
一度、うちに回ってきた回覧板をなくした時はひやひやもんだった。
どこを探しても、見つからない。
前に日が「燃えるごみ」の日だったろ?
俺の予測じゃ、多分、俺か君が間違って捨てちまったんだろう。
次の日、班長に一緒に謝りに行った時の班長の顔、覚えてる?
言葉は優しかったけど、目はずっと無表情だった。
腹の中は煮えくり返ってたんだろうなあ。
班長の前で、君は言ったね。「ごめんなさい」って。
君が謝る必要なんて、まったく、なかったよ。
俺が捨てた可能性だってあったんだから。
班長は本当に冷たいやつだったよ。

そうそう、この森のボスが代わったときのこと、覚えてる?
あの時は大変だったな。
満場一致で新しいボスに決まったはずなのに、前のボスが意地はっちゃって。。
周りのみんなであの爺さんを何とか説得しようと集まった。
爺さんにとってはこの森がすべてだったんだろう。
もちろん、それは俺らにもわかっていた。
ただ、爺さんに俺らを引っ張っていく求心力はすでになくなっていた。
それに比べて、新しいボスは飛ぶ鳥を落とす勢いだった。
隣の森のボスと対等にやっていけるのはあの人しかいなかった。
俺らは爺さんにそのことをじっくりと説明した。
そしたら、爺さん、なんていったと思う?
「この恩知らずめ!お前らにわしの気持ちがわかってたまるか!」とさ。
そこで、俺らは爺さんに説得をあきらめた。
次にどうしたかって?
ひたすら、爺さんに無視を決め込んだ。
まるで爺さんがそこにいないかのように扱ったんだ。
これは効き目があった。日に日に元気がなくなっていって、ついには姿を消した。
爺さんは俺らを恨んでいるだろう。でも、爺さんには悪いが、これは仕方のないことだった。
今、あの人はどこにいるかな。。

いろいろなことがあったけど、変わらないこともある。
それは君が今も俺の横にいてくれるということだ。
その場所が終わったら、しっぽチェック、交代しよう。
この前、君のしっぽに小指ぐらいの虫がいたけど、今日は大丈夫だろうな。
さあ、交代だ。しっぽをこっちに回して。。

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