逃亡者

Life

おれの秘密を知りたいかい?
まあ、そこに座りなよ。
おれは昔、六本木を仕切っていた。
こんなしょぼくれたおっさんが。。と思っただろう。
いや、うそじゃないんだ。

ちょっと、唐突すぎるかい?
話をおもしろくするコツは、最初にインパクトのある言葉をガツンと。。
もういいって?
年を取ると、どんな話をしても説教じみてしまうから、いけねえな。

まあ、いいさ。
うそだと思うなら、これを見てみなよ。
ほら、この写真のおれの横に映っているやつ、
あんただって知ってるだろう?
そう、あのドラマで一挙に名が売れた、あの俳優だよ。
土下座で一世を風靡したなんて笑えるよな。。

だけど、それが真実だ。
やつはあのドラマの中で土下座をして、名を成した。
ドラマの主役に「参りましたー」ってやったんだな。
それでスターの仲間入りだよ。
やつはそれから、とんとん拍子でスター街道を走り続けていった。

やつは売れ始めたころの年齢が遅かった。
あのドラマのころは、やつが30代も後半に入ったころだったと思う。
そのころ、おれはあのドラマのファンだった。
テレビでやつの一挙手一投足を追いかけて、ハラハラしたもんだよ。

それだけに、店で始めてやつを見かけたときは拍子抜けしたよ。
びっくりするぐらい背が低くて、おどおどしてやがった。
芸能人特有のオーラなんてかけらもなかった。
だから、変に壁がなくて、近づきやすかった。

なぜ、やつに近づいたんだって?
そりゃ、ドラマのファンだったし、そんな殿上人みたいな人と
つるんでみたかったという下心ももちろんあった。
だけど、一番の目的はそんな殿上人みたいな人だって、
おれ達と同じだって思いたかっただと思う。
おれ達と同じ馬鹿なことをやって、冗談を言い合って笑いあいたかったんだと思う。
言い方を替えると、やつをおれと同じレベルにまで落として安心したかったんだな。
「あの芸能人だって、おれと同じ人間だ!」って。。

週刊誌でやつの記事を読んだだろう。
ああ、その通りだ。
週刊誌にやつの醜態が映った写真を売ったのはこのおれだよ。
あんた、よくわかったね。
今思えば、馬鹿なことをしたもんだよ。
おれまで巻き添えを食ってこのざまだ。
今は、こんなど田舎で、ある組織から身を隠している。。
それ以上はいえねえ。

おれはこれから永遠に逃げ続けなきゃならねえ。
それが仲間を裏切った者の運命(さだめ)だ。
おれはもうすでに次の逃げ場所を決めている。

次の逃げ場所には、なにかいいことがあるかな。
この雨の中じゃ、夢も希望も消え失せちまう。。

コメント

タイトルとURLをコピーしました