雨の底

Life

「今日は、よく雨が降るわねえ。」

ぽつりと、誰に言うでもなくつぶやいた。
けれどこの雨は、もう「よく降る」どころの話じゃない。
私の足元にあったはずの地面は、とうに見えなくなっていた。
水は膝を越え、腰にまで届いている。いや、それ以上かもしれない。
完全に、災害レベルだ。

「って、ちょっと! 水、あふれてるんですけど! 誰か、助けてくれませんか!?」

そう叫んだところで、返事はない。
辺りは静かだった。何も聞こえない。
この世界に残っているのは、ただ、私と雨だけ。
どこまでも無機質な雨の音が、空と地をつなぎながら私の身体を濡らし続ける。

他の人たちは、どこへ行ったのかしら?
さっきまで一緒にいたはずの友人、家族、すれ違った通行人――みんな、どこへ?

私は、いつも孤独だった。
笑っていても、誰かといても、心の奥はいつもぽっかりと空いていた。
気づかれないように過ごすのが得意だった。
そして、気づいてくれる人もいなかった。

今まで、嫌なことだけが、晴天の霹靂のように降ってきた。
一瞬で、世界の色が変わるような出来事ばかりだった。
予告なしで、心に突き刺さってくる理不尽。
避けようがなくて、笑うしかなかった。

――まるで、私の人生みたい。

そんなことを考えていると、雨が少し強くなった。
ぽつ、ぽつ。
ばしゃ、ばしゃ。
音が、私の輪郭を少しずつ曖昧にしていく。

「……え?」

ふと、気づく。
何かが、おかしい。
さっきまで水に浸かっていたはずの足が、急に軽くなった。
体がふわっと浮かんだような気がする。
視界が滲んで、景色がぐにゃりと歪んでいく。

「これって……もしかして、夢?」

心の奥にぽっと、ぬくもりがともる。
ああ、そうか、夢だったのか。
じゃあ、この雨も、この孤独も、あの絶望も――全部、幻だったのね。

ああ、夢でよかった……。

濡れていた髪の毛が、ゆっくりと乾いていくような気がした。

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