Life

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砂の世界で生きる

私はこの砂の世界で生きている。見渡す限り、砂。空を見上げれば、果てしない空。それ以外に何もない。あるいは、何も要らない——と思えるほど、この世界は単純だ。砂は風に吹かれ、時に丘を作り、時に跡形もなく崩れる。昨日あったはずの景色が、今日にはも...
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やばい、降りられない

やばいなあ……。さっきまで、「俺って、やっぱり自然が似合う男!」なんて調子に乗ってたのに、今はその自然に全力で裏切られている。ことの発端は、そう、3時間前のこと。たまたま見つけたこの岩に、なんとなく「のぼってみたら映えるかも」なんて軽いノリ...
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雨の底

「今日は、よく雨が降るわねえ。」ぽつりと、誰に言うでもなくつぶやいた。けれどこの雨は、もう「よく降る」どころの話じゃない。私の足元にあったはずの地面は、とうに見えなくなっていた。水は膝を越え、腰にまで届いている。いや、それ以上かもしれない。...
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旅の終わり

港が見え始めた。青黒い海の向こうに、岸沿いのかすかな灯りがちらちらと明滅している。その光は、まるで長い航海を終えた者たちを優しく迎えるようで、男にとってはどこかロマンティックに感じられた。「もうすぐだね」と、男は目を細めて言った。船の甲板に...
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結婚しよう

男さあ、結婚しよう。今すぐしよう。女そんなこと言ったって。まだ、心の準備が…。男何だよ?そんなもの俺たちに必要か?愛があれば十分だろう?女愛だけではだめなのよ。私に毎年、誕生日の贈り物してくれる?旅行に連れて行ってくれる?贅沢は言わないけど...
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雪原の足跡

オレは極寒の地を歩いている。ほら、見てくれよ。このきれいな足跡を。今は夏だから、吹雪もこないだろうから、しばらくはこれらの足跡もそのまま残っているだろうなあ。このまま消えてほしくないなあ。って、そうじゃないだろう。早く消えてくれなきゃ、困る...
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新聞紙の向こう側

私は紙の新聞が好きだ。インクの少し苦みのある香りと大きな紙面は、父を思い出させる。子供のころ、いつも朝の食卓で、大きな紙面越しにのぞく父の真剣なまなざしは、私にとって、あこがれだった。大人の世界を、一瞬でも感じることができたからだ。冷たくて...
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人生のたそがれには

今からわしの第二の人生が始まる。さっき30年勤め上げた会社で手続きを終えて、帰宅するところだ。今日が最終日だった。朝食の時、妻がささやかな退職祝いのつもりだろうか、いつもよりトーストを1枚多くつけてくれた。あえて礼は言わなかった。なぜなら、...
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無神経な男

「ねえ。こんな大事な話をしているときに、なぜ、あなたは携帯をいじっているの?」「あっ。ごめん。今ちょっとメールが来たから」「そんなに重要なメールなの? あなた、今の状況わかってる? 今、私たちの結婚生活をどうしようかっていう話をしているのよ...
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ダンケルク

私はこの場所にずっと立っている。君たち人間の単位でいうと…、そうだな、300年くらいか。君たちの目から見ると、ずいぶん寂しいところにつっ立っているなあと思うことだろう。昔は、この辺りもうっそうと木が茂っていて、にぎやかだった…。その頃は、私...