満月の夜に

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満月の夜に、私はあの人のことを思い出している。
あの人と別れて、もう三年。
最後は「さよなら」も言えなかったわね。
二人とも、そんなことを言える状態じゃなかったし。

嫌いになったわけではなかった。
たぶん、あの人もそうだったと思う。

ただ、少しずつ言葉が減っていった。
何を話しても、どこかで傷つけてしまうような気がして、
私たちは黙ることのほうを選ぶようになった。

それでも、思い出すのは悪い場面ばかりではない。

夜の海を見に行ったこと。
コンビニのコーヒーを二つ買って、車の中で飲んだこと。
くだらない話で笑って、しばらく帰るのを忘れていたこと。

特別な約束など、何もなかった。
それなのに、あの頃の私は、明日も同じように会えるのだと思っていた。

最後の日、あの人は何かを言いかけた。
私も、何かを言うべきだった。

でも、言葉にした瞬間、全部が本当に終わってしまう気がした。
だから二人とも、何も言わなかった。

あれから三年が過ぎた。

私は今も普通に暮らしている。
仕事をして、誰かと笑って、季節が変わるたびに服を替える。
もう泣くこともほとんどない。

戻りたいわけではない。
ただ、戻れない場所があることを、ときどき思い出すだけだ。

満月は、何も答えてくれない。
ただ、忘れたふりをしていたものまで、静かに照らしてしまう。

あの人は今、どこで何をしているのだろう。
もう私のことなど、思い出さないかもしれない。
それでいいと思う。

それでも今夜だけは、少しだけ思い出している。
あの人のことを。
あの人といた頃の、私のことを。

窓の外で、月が白く光っている。
私はそれをしばらく見つめてから、静かにカーテンを閉めた。

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