天地がひっくり返っても

Friend

私は、自分でいうのもなんですが、いつも穏やかでかわいくて、
人間ならだれでも私に触れたいと思うようなワン・ダフルな犬です。
いつもご主人様の後ろにくっついて、笑顔を見せています。
笑顔は犬にとっては基本です! ワン!

ご主人様は普通のサラリーマンで、ほとんど家にはいません。
私がこの家に仲間入りさせていただいた時には、よく構っていただいたものですが…
ご主人様が家にいないと、やはり寂しい気がします…
なんだか、家の中の重しが取れてしまったような、そんな気にもなります。

最近、私を散歩に連れて行ってくれるのは、もっぱら奥様です。
奥様はいつも私の頭をなでながら、こうつぶやきます。
「お前はいつもいいわね、楽しそうで。私の悩み、聞いてくれる?」
そして、少し寂しそうな表情をして、続けます。
「私の悩みはね、旦那が私に振り向いてくれないこと。
最近はずっと『仕事、仕事』って、外出気味だし…
もしかして、他に女でもいるかもね…」

そんな時、私はこころの中でこう叫びます。
「奥様はきれいですよ! 私の散歩でいつも運動をされているから、
スタイルもいいし、表情もいつも豊かで、イキイキされています。
旦那様は、お忙しいんだと思います。
だって、いつも帰りも遅いし。
旦那様を信用してあげて下さい」
しかし、そんな言葉はもちろん奥様に伝わることはありません。
むなしく「ワン、ワン」と響くばかり…

奥様、あなたはこうおっしゃいましたね。
「私には悩みはない」と。
私の悩みはあなたに本当の私を知ってもらえないことです。
あなたのことをこんなに好きなのに、私の思いを知ってもらえないことです。

私はよく、自分が人間に生まれていたら…なんてことを考えます。
私がもし、人間に生まれていたら、あなたをこんなに苦しませるなんてこと、
絶対にしません。
たとえ、旦那様を押しのけてでも、あなたを守りたい…

申し訳ございません。
こんな夢物語をお話しするのはやめましょう。

私はいつでもあなたを見つめています。
何があっても、天地がひっくり返っても、あなたを守り抜きます。
絶対に誰にも邪魔はさせない、ワン!

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