「ねえ、青春ってなんだろうね?」
涼子が、波打ち際で足を止めて言った。
夕焼けが海に溶けて、
影だけになった僕らが、ゆっくり揺れている。
「俺たちが今こうしていることだよ」
翔太が、当たり前みたいに答える。
「これが青春だって。
だって、みんな楽しいだろ?」
その言葉は、少し眩しすぎた。
「親父が言ってたよ」
直樹が、波の音に負けないように声を張る。
「青春は、そこにいる時にはわからない、って。
だから、これは青春じゃない。
だって俺たち、今、意識してるだろ?」
なるほど、と誰かが小さくうなずく。
理屈としては、たしかに正しい。
「俺は全然、楽しくないけどな」
亮が、濡れたボードを引きずりながら言った。
「サーフィン、へたくそだし。
お前らみたいに、青春、やってないし……」
波が一つ、静かに砕ける。
「ねえ、亮」
涼子が、少しだけ強い口調で言った。
「あんた、いっつもそうやって雰囲気壊すよね。
今、いい感じなんだから、青春でいいじゃん」
その瞬間、
誰も言い返さなかった。
楽しいとか、楽しくないとか。
わかるとか、わからないとか。
青春かどうかなんて、
本当は、どうでもよかったのかもしれない。
ただ、
同じ時間に、同じ海に入って、
同じ夕日を見て、
同じように疲れている。
それだけで、十分だった。
後になって思い出す時、
きっと誰かが言うのだろう。
「あの頃は、青春だったな」って。
その時、
今日のこの会話のことは、
たぶん、もう覚えていない。
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