やばいなあ……。
さっきまで、「俺って、やっぱり自然が似合う男!」なんて調子に乗ってたのに、
今はその自然に全力で裏切られている。
ことの発端は、そう、3時間前のこと。
たまたま見つけたこの岩に、なんとなく「のぼってみたら映えるかも」なんて軽いノリでよじ登ってしまったのがすべての始まりだった。
インスタ映えの誘惑に俺は見事に負けた。
気づいたときには、高さ約3メートル、幅わずか30センチ。ほぼ棒。足場ゼロ。
自撮りどころか、足の置き場もない。
「まあ、登れたってことは、降りるのも簡単だろう」
――そんな風に思った俺が間違いだった…。
かれこれ3時間、いや、たぶんもっと経ってる。
俺は叫んだ。
「誰か、助けてくださーい!」
これで5回目だ。
声が枯れるとともに、希望も少しずつ削られていく。
風が吹くたびに、岩がぐらっと揺れたような気がして、背中に冷や汗が走る。
しかも、足がもう麻痺してきてる。
右足が「もう帰りたい」って言ってる。
左足は「ここで一生を終えよう」と悟りモードだ。
「ジャンプしろ、俺!」と、心の中で叫ぶ。
でも、それができない。
ジャンプしたところで、着地に失敗したらニュース沙汰だ。
いや、それ以前に骨は確実に折れる。
下手したら心も折れる。
そのうち、ふと家族の顔が浮かんできた。
今頃、妻と娘は俺のことを心配してくれてるだろうか。
いや、正直に言えば、たぶん「またバカなことやってるんじゃないの」と半笑いで鍋つついてる気がする。
まじで。
そのとき、遠くから登山者らしき二人組がやってきた。
「あ! 誰かいる!」
「えっ、あんなとこに!? え、降りれないの!?」
彼らの目が、「珍獣でも見つけた」みたいに見開かれている。
すると、次の瞬間、彼らは、スマホを俺のほうに向けて…、写真を撮り始めた。
「写真撮る前に助けてくれませんかーーーっ!」
そう叫んだ声は、山々にこだました。
……こうして、僕の岩上体験は、無事に終わりを告げたのだった。
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